ついに３つ──加えて最後のひとつの「材料」を手に入れた冒険者たち。
ふたたびイェズニカ薬舗を訪れていた。

床に散らばっていたもろもろの残骸は、セルフィドとホェルンによって、だいぶ片付けられていた。
エプロンを身に着けたセルフィドと、ほうきとちりとりを持ったホェルンが、一行の気配に気付いて振り向く。

冒険者たちは、崩壊したトンマーゾ薬舗での出来事を話した。
そしていままでのいきさつもすべて。
セルフィドは腕組みをして黙って聞いていた。ホェルンは聞き終わると、ポロポロと泣き出してしまった。

ホェルンの背中を軽く叩きながら言う。

大量の料理に怯えて逃げようとしたところを引き留められたという事実を、彼は知らない。

ごしごしと目をこする。

珠と筒をちゃんと渡します。
無くしたなんてここでは言いません（笑）

セルフィドは宝を受け取ると、銀のボウルの上でそれらをひとつずつかざし、指ではじいてみる。
キーンという音とともに、中に収まっている「鍵」が勢い良く回り出し、キラキラと不思議な光を放ちながら粉がこぼれ落ちた。

セーピアの「宝玉」からは、青い粉。フランメグルの「宝筒」からは、赤い粉。
コロールの「宝輪」からは茶色の粉、そして風織り──スィニーの「宝剣」からは緑の粉。

しげしげと興味深そうにセルフィドの手元を眺める。

驚きの表情。

そう言うと数枚の羊皮紙と筆記用具をテーブルの上に置き、魔法の粉を持って調合室に引っ込んで行った。

ホェルンは皆に一礼すると、涙ぐみながらふらふらと外に出て行った。

オルフェは簡単な挨拶を書いた後、2つの事項を条件を添えて箇条書きにしていった。

先程のすぃ〜とな夢を思い出したのか、頬を赤らめる。

脳内妄想でうきうき。

偉そうに。

一方的のろけ。

のろけは無視（笑）

異常度に気づかず。

何気にきつい一言（笑）

効いていなかった。

言い終わるか言い終わらないかの辺りで即答した。

あれこれ悩んだ末、30分後には夢と希望と欲望がたっぷり詰め込まれた領主宛の提案書が出来上がっていた。

オルフェはふと思いついたように、提案書の最後に『レィジナスを楽士として再雇用して頂ける用に願います。』と書き加えた。

そこへ、難しい顔をしたセルフィドが、エプロンを外しながら戻ってきた。

小さな小瓶を指でつまんで、皆の前にかざす。
中には透き通ったピンクの液体が入っていた。

しげしげと薬を眺める。

セルフィドは破顔一笑して皆を見回し、深々と頭を下げた。

その時、外に出ていたホェルンが、血相を変えて弾かれたように舞い戻って来た。

声が裏返っていた。

セルフィドは小瓶を懐に入れると、すばやく外套を羽織る。
ホェルンに留守を預かるように言い、レィジーを視線で促すと、外へ向かった。

セルフィドは力強く頷く。

慌ただしく一礼する。

懐から髪飾りを取り出すと、それにコモンルーンでライトをかけてから差し出した。

とたんにレィジーの目に涙があふれ出した。

髪飾りをそっと受け取り、涙声でそう言って微笑みかけた。
そして泣き顔を隠すようにしながら外へ走り出て行った。

セルフィドもそれを追って出て行く。

あとにはホェルンと冒険者たちが残された。
ぽっかりと空いた屋根から見える、満天の星空。
そこをふたたび真っ赤な光の筋が横切ったのが見えた。
心無しか、地面が小刻みに震えているような気もする。

試しに叫んでみるが、風は吹かなかった。

遠くを見すぎて真上を見てる。

ぽつりと（笑）

頭を拳で小突く（笑）

思わず振ってみた（笑）

同士が増えたと思い込んだ（笑）

バッサリ切り捨てた（笑）

がばっと頭を下げる。

ちょっと強く言い過ぎた、とあたふたしながら。

ぺこりとお辞儀。