キュラスとナッシェレを護衛に残し、「天の絹糸亭」を出た一行。
ホェルンは、他のおつかいを済ませてから宿に行くと言って、いったん冒険者たちと別れた。

今にも降り出してきそうな満天の星空の下、夜のとばりに包まれた温泉街を歩く。
オルフェの持つ「ライト」がなければ、もはや足元もおぼつかないが、あたりの酒場からはもれてくる賑やかな声、そして美味しそうな夕食の匂いは、まだまだ途絶えそうにない。

懸命に手綱を握ります。

早くキュラスの元に戻りたいのが見え見え（笑）

ミァが紐にくくりつけ、犬の散歩状態で持っている「逆さTの石」。
それが向かおうとしている方向へ歩いていくと、ほどなくして「猛る熊の鼻先亭」の前にたどり着いた。
看板には、鼻先にハチが留まった猛々しい熊のレリーフが彫られている。
石は、まっすぐ宿の中を指しているようだ。

扉を開けて中に入ると、丸太小屋のようなつくりの内装。
木のいい匂いと、温泉のふしぎな匂いが漂ってくる。
受付は広く、木のベンチで座って談笑する冒険者風の客がちらほら見られた。

一行の姿を認め、笑顔で話しかけてくる。

にこにこ、営業すまいる。
同じくにこにこ（笑）

首にぶら下げていた銀のプレートを見せる。
女の子はそれをまじまじと見て、

リュントに部屋の鍵を渡し、ぺこりと頭を下げた。

釘さし。

言ってるお前が一番危険。

信じた。

またもや持病が再発したらしい。

嬉しそうに両手で頬を押さえてにこにこ。

いつになく強引にオルフェの腕をひっぱって、受付から離れさせる。

乙女パワーにかなわなかったらしく、大人しく受付を離れた。

にこにこ。

知る由もない。

変なことを聞くお客さん〜、的な視線。

一人で納得の雰囲気

チェックインを済ませると、受付から続く、長い廊下の奥の方から、聞き覚えのある声が聞こえた。

公園で別れた時のままのノールの後ろ姿が、地団駄を踏んでいた。
彼が向き合っているのは、背中まで長い銀髪の女性。
服装や仕草、声の質も含め、オルフェにはレィジーに間違いないように見えた。
ふたりとも、一行に気づいた様子はない。

ふたりは廊下の突き当たり、露天風呂への入口の前で話しているようだ。
そして、ミァが持っている「逆さTの石」は、まっすぐ彼らのいる方向に向かおうとしている。

最前列にいた（つもり）のを、後列へ下がる。

道を開けて欲しそうに、遠慮がちに話しかける。

ノールはアリエラを見、次にそのうしろのミァとリュントを見る。

すったかたったったーとミァに走り寄り、がばちょと抱きつこうと。

すぱこんぱーーーん！
避けた挙句、温泉スリッパで無防備な頭上をはたく。

よろろと前のめりによろけるノール。
そして避けたミァの先は――やっぱりこの人。
後列に下がったのが災いしたか。

リュントはすかさず足を少しだけ残し、半身になる。

まるで操り人形のようなあり得ない動きで、無茶な角度から体勢を立て直し、一回転して着地する。

後頭部を撫でさすりながら、スリをかわされたときのリュントの真似をする。

忠実に繰り返す。

きょとんと首傾げ。

根拠の無い信頼。

びっと親指を突き出し。

まさか………（笑）

本気だ。（死

もったいつけよう（笑）

他意の無い、純粋な瞳で。

妙にしみじみと（笑）

いたって冷静に（笑）一体どっちなんだよ（笑）

レィジナスはオルフェに気づくと、居心地が悪そうにうつむいてしまった。

おそるおそる顔を上げ、たどたどしい共通語で尋ねる。

オルフェは一瞬考えた後、ニュアンスが正しく伝わるようにエルフ語で話した。

それを聞いてレィジーは真っ赤になって手で頬を覆った。

ずっと気にしていた、という様子でぺこりと頭を下げた。

感謝の笑みを浮かべて言った。

ぷりぷりと割って入る。

背中のハープをさっと取り出し、ポロポロン♪とかき鳴らす。
なかなか良い音がした。

ポロポロン♪

知らなかった（笑）

なにしろ数ヶ月前だ（何

あっさり納得。