| オラン衛視隊会議室 |
あわただしい夜が明けた。
朝5時にはウリディケが目を覚まし、朝の礼拝を行う。
詰め所の馬屋を借りて白馬ナナイの手入れと食餌を済ますと、素肌のお手入れとお化粧を始めた。
仮眠室でも、同じくらいの時刻に起床したようで、なにやら声が漏れてくる。
どうやらノーブに昨夜の様子を説明しているらしい。
昨夜、詰め所にもどったのが遅かったのかカロンの姿はなかった。
説明している間に、ニアリースが詰め所にやって来た。
ファラハと少々話した後、とりあえず別室で冒険者達の行動を待つことにしたらしい。
朝の6時くらいになるとアンナが目覚めた。
それに伴い、冒険者達(カロン除く)も会議室に集合した。
彼女は、最初自分が置かれた状態が良く理解が出来なかったみたいだが、ファラハの説明を聞いて、大体理解したみたいである。
今の彼女は、落ち着いて話が聞ける状態だ。
| ■ウリディケ To:アンナ |
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おはようございます。 私、ラーダ司祭のウリディケ・フェニールと申します。 |
彼女を刺激しないようにパーティ全員の自己紹介を済ませた。
| ■アンナ To:ウリディケ&ALL |
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……お、おはようございます。 |
| ■ウリディケ To:アンナ |
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それでは、お伺いしたいのですが、どうして狼なんかに変身してしまう毒に関わることになったのでしょうか? それとは知らなかったかも知れませんが、「あの時かも」と思うことがあれば、教えて下さい。 |
「毒」のところで反応したアールが、ひとさし指を口元にもっていき注意を促す。
それに気付いたウリディケは、眉一つ動かさず「無視」した。下手な反応は、墓穴を掘ることになりかねない。アンナと正対してる手前、符丁による手話すら危険だ。
ウリディケの方を向いていたアンナは、それには気がつかなかったようだ。
| ■アンナ To:ウリディケ&ALL |
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さあ、それは何とも……。 おかしくなった日にあった変わった事と言えば、ネルド若旦那があたしに「今までのお詫びだ」といってお菓子をくれた事くらいです。 |
ネルドという単語に、エルステッドの耳がぴくりと動いた。
| ■アール To:アンナ |
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「お詫び」…されるようなことがあったのですか? 些細なことでもよろしいのでお聞かせください。 |
| ■アンナ To:アールALL |
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実は……あたしはしばらく前から、若旦那に交際を迫られていて……。 あたしは全くそんな気がないから、ずっと嫌だと言っていたんです。 それでもしつこく迫ってくるので、一週間くらい前にみんなの前ではっきりと「嫌だ」と言いました。 |
| ■アール To:アンナ |
| みんなの前で…ねぇ。 |
| ■ウリディケ To:ファラハ |
| ファラハさん、ネルドさんは独身でしたか? |
| ■ファラハ To:ウリディケ |
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ええそうです。 こう言っては難ですが、あまり良い噂のある人ではありませんで、日がな一日、悪い仲間と遊び歩いていたみたいですね。 当然、女性関係の方もあまり良い噂はないです。 |
| ■ウリディケ To:ファラハ |
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なるほど……、独身では「交際を迫った」ことは咎められませんね。 しかし、女性関係がよくないようでは、アンナさんが断るのも無理からぬ話のようですね。 ありがとうございました。 (「素人好き」ってこと?…悪趣味な。遊びなら、玄人と遊びなさいよ。) |
| ■エルステッド(内心) |
| (”若旦那”で、遊び人…。それがみなの前で「嫌だ」と言われた……) |
| ■アンナ To:アールALL |
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そのあと2,3日は若旦那は店にも顔を出しませんでした。 でも、今日から数えて3日前でしょうか、突然あたしに「お詫びだ」と言ってお菓子をくれました。 お菓子に罪はないので、美味しく頂いたのですが、その夜から……。 ……夜の間の記憶はほとんど無いのですが、自分が何かしでかした事だけは分かりました。 怖くて、怖くて、ずっと家に閉じこもっていました。 父も母もその方が良いと言ってくれました。 でも、夜が来るたびに記憶が曖昧になって……。 昨夜も――夕方月が高くなってからの記憶が……。 |
| ■アール To:アンナ |
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お菓子をもらったのはひとりの時ですか? また、そのお菓子ですが、どんなものでした? |
| ■アンナ To:アール |
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はい。直接あたしに渡しに来ました。 お菓子は、小さなカップケーキみたいなのが2つでした。 家に帰ってすぐに食べてしまいましたが……。 |
| ■ノーブ To:アンナ |
| ところで、お菓子の入ってた入れ物は残っとるのかのう? |
| ■アンナ To:ノーブ |
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家に残っている……はずです。 入れ物と言っても、風呂敷みたいなものですが。 |
| ■エルステッド To:アンナ |
| 先ほど菓子は2つ、と言われていたが……。2つとも食べてしまったのですか? |
| ■アンナ To:エルステッド |
| ええ……。丁度お腹も空いていましたし……。 |
| ■ノーブ To:アンナ |
| それと、ネルド若旦那が、お菓子を持ってきたのは何時頃じゃったかのう? |
| ■アンナ To:ノーブ |
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夕方くらいです。 丁度仕事が終わるくらいの時間帯です。 |
| ■ウリディケ To:ALL |
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では、ネルド若旦那は4時間近く、現場近くで遊んでたのかしら? ネルド本人に、確かめる必要がありそうね。 |
| ■アール To:ウリディケ |
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薬がどういうものか知っていたかはさておき、その結果に対して祝杯でも挙げていたんじゃないか? その被害者になるとは想像していなかったんだろうがな。 |
| ■ウリディケ To:アール>ファラハ |
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……それっぽいわね。 ところで、アンナさんのこの後の予定は、どうなってましたか? |
| ■ファラハ To:ウリディケ |
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今回の件は皆さんにお任せしているので、衛視隊では特に質問することはありません。 皆さんから何もなければ、ご両親と一緒に家に帰って貰う予定です。 |
| ■ウリディケ To:ファラハ、アンナ、ALL |
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分かりました、 それでは家に帰すついでに現場検証したいので、アンナさんには御両親共々、検証にも付き合って頂きたいと思います。 それでは早速行きましょうか。 |
| ■ノーブ To:ALL>アンナ |
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……少し、待っとくれ。 つかぬ事を訊くのじゃが、そのお薬を盛ったと思われた若旦那……もといネルド氏は、小さい頃は魔術師を目指していた事と───魔術師と交友…例えば屋敷に怪しげな連中が出入りする事…はあるのじゃろうか? |
| ■アンナ To:ノーブ&ALL |
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いえ……そんな事はないと思います。 店にはそんな人は訪ねてきませんでした。 でも、裏で若旦那が何やっているかはあたしもよくわかんないです……。 |
| ■アール To:アンナ |
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さて、アンナ。 君の疑いは晴れたと思うが…嫌いな人からもらったモノに警戒するだけの注意力は必要だな。 まあ、若旦那にはきつく「おしおき」してやるけどね。 |
| ■アンナ To:アール&ALL |
| ……はい。これからは注意します。 |
話が一段落ついたところに、ドアをノックしカロンが入ってきた。
| ■カロン To:ALL |
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みんな、おはよ〜。 そこで衛視の人に聞いたんだけどアンナさん目を覚ましたんだって? |
ニアリースと共にマーファ神殿に行ってネルドの行動を制限されるよう細工してきたカロンは、全ての手筈を済ませ詰め所に帰ってきた頃には日付も変わっていた。
それからやっとベッドに潜り込んだので、他の仲間よりも起きてくるタイミングが遅くなっていた。
結果的に集合した冒険者達は、素早く行動すべく詰め所の食堂で朝食を流し込むと、朝一番で『第4の事件現場』となったアンナの家に向かった。