ケットはきびすを返し、カーガッドを呼びに厨房へ走った。

セイルディアはその場で防御専念。

レヴィンはウィスプを召喚。「黒いもの」に向かって投げつける。

ウィスプの光が黒い空気を吹き飛ばしながら炸裂した。
「黒いもの」の胴体から、ツッと紫色の液体が滴り落ちる。しかしまだ傷は浅いようだ。

マーキュリーは素早く「黒いもの」に近づき、モールを首に向かって叩き付けた。

弓のようにしなった首から耳をつんざく叫び声が漏れた。
苦しげに身をよじり、ウロコに包まれた尻尾を甲板に叩き付ける。

シッフは恐怖に顔をひきつらせながら、船尾側へと走った。

空の傷口から滲み出した黒い空気が、ナーヴェのいる見張り台をすっぽりと包み込んだ。空気はメインマストに絡み付きながら、船尾側へと徐々に移動していく。

セイルディアは船酔いの気持ち悪さに耐えながらも、素早くスタッフを翻すと、上位古代語を紡ぎ出す。
白いエネルギーの矢が一直線に「黒いもの」に向かって走った。

それは寸分違わず敵を貫く。致命傷を受けた「黒いもの」は、
ぶすぶすと音を立て、甲板にぐったりと崩れ落ちた。

崩れ落ちた「黒いもの」に容赦なくモールを振り下ろす。
敵は叫び声もあげず、完全に絶命したようだ。

ナーヴェが半ば転げ落ちるようにしながら、見張り台から下りてきた。
甲板に四つん這いの格好になり、しきりに胸を押さえている。

空を覆い尽くす黒い空気は、船全体を包み込むほどに広がっていたが、急にその勢いを無くし、徐々に溶けるように消えていく。
よく見ると、周りの空気が淡い優しい光を帯びているように見える。

やがて空の傷口も静かに閉じていった。

素速く駆け寄りながら声をかけるマーキュリー。

大きくため息をつくと、何とか立ち上がった。
顔色も良くなってきているようだ。

よろよろと倒れた黒いものに近づき、監察するように眺める。

感覚を思い出したのか、口に手を当てて不快さに耐えるナーヴェ。

マーキュリーは周囲を不思議そうに眺める。

キラキラと潮風の中を漂う光の粒も、やがてさらりと溶けるように消えていった。
あたりは平穏さを取り戻し、さわやかな青い空と白い雲が頭上に広がっている。

ホッとした様子でシッフが戻ってきた。操舵室ではバトーが手を振っている。ふたりとも無事のようだ。

船は予定通り、このまま島にゆっくりと進んでいくようだ。
もたもたしていると渦潮が発生してしまうからだろう。

不安そうにひとつ、ため息をつく。