一方。
　パーティーメンバーがそれぞれ情報を集めに出払った頃。

　それから数時間。日は落ち、細い月が天空に上るころ。
　何事も無い平和な時間は、メイドの悲鳴で破られた。

　メイドの悲鳴は、どうやら二階のジュナイルの部屋から聞こえてきた。

　ちょうど屋敷に帰ってきたクロスは、悲鳴を聞きつけドアを叩いた。

　慌てて玄関に向かい、そのドアをがちゃりと開ける。

　クロスたちは、急いで階段を上り、悲鳴の上がった部屋へ向かった。
　部屋を一目見ると、明らかに何者かに荒らされた跡があった。
　乱雑に漁ったようにしか見えず、クロスには目的が何なのかはわからなかった。
　クロスの見立てでは、進入経路は窓からと思われたが、窓枠にロープ等がかけられていた形跡は見当たらない。

　陽動の可能性に気づき、言うが早いか黒耀逢香のところへダッシュするエメラルド。

　エメラルドが温室の黒耀逢香のところへ駆けつけると、花は無事に変わらずそこにあった。
　やせ細り弱々しくなった月明かりを受け、少し蕾が大きくなっている。

　と、にこにこしながら花を見上げる。
　念のため、怪しい様子が無いかと周囲を見回すエメラルド。
　その時、ふと自分の背後で何かが動いた気配を感じた。

　ビクっとして背後を振り返る。
　しかし、人の姿は見当たらない。

　ちょっと首を傾げつつ、周囲をきょろきょろ。
　すると、窓の一つが薄く開いている事に気付いた。

　クロスを引っ張って、開いた二階窓の傍へ向かった。

　クロスは窓枠に少しだけ付いていた黒い何かを指でつまみ取った。

　びしっと指を立てて大発見でもしたかのように得意顔。

　窓をそのままにもしておけないので、きちんと締めて鍵をかける。

　ちょっとだけしょんぼりし。
　猫は字が書けないから、予告状は出せないよ。

　しかし、実はフィアルラは気がついていなかった。これ以上に騒がしい男が後方から猛スピードで迫っていることに。

　と、パオルが土煙を上げながら勢いよく走り込み、帰宅。
　無論、彼の頭の中は（いつも通りに）食事のみなので、フィアルラの存在には気づかず、そのまま……。

　案の定、しっかり吹き飛ばされてます。
　それでもシーフなのか……。

　前方不注意、業務上過失傷害。

　クロスはポケットから、折りたたまれた羊皮紙を取り出した。
　広げるとその中には、獣の毛と思われるものが幾筋か見える。

　しかし、フィアルラが見ても、やはりめぼしい発見は無かった。