個室の準備にしばらくかかるということで、酒場『幸せの木』を追い出された一行。今日はからりと晴れた風の気持ちよい日。思いがけず暇ができ、定宿にしている銀の網亭の中庭で、リッキは一人小石とにらめっこを始めた。

　む〜っと石を見つめたまま動かない。

　さっきより一生懸命に、両手で足元の石ころを急いで漁る。

　その時ちょうど、今まで愛用していた剣を預けようとやってきたユウルが、中庭の側を通りかかった。

　先ほど知り合ったばかりのリッキとおやじの姿を中庭に見つけて近づいてくる。 真剣に石を選んでいるリッキを不思議そうに眺めつつおやじに声をかけた。

　カルソニックが見やった方では、地べたにしゃがみ込んだエルフのリッキと剣を持ったユウルと慌てた様子のおやじが何やらヒソヒソと？

　カルソニックとユウルの間に落ちていた石に目を付けたらしく
二人の間にがばっとしゃがみ込んで小石を拾い上げる。
ギャラリーにくるっと目配せをして……

　リッキの精霊語の呼びかけに応えて、中庭のちっぽけな地面の下を何者かが動く気配がこの場の全員に感じられた。さらにリッキには、ノームの気配が強く感じられる。
しかし、最初の呼びかけでは姿を現すまでには至らなかった。あと一声？

　いつの間に近寄ったか、背後より聞かれても無いのに答える。(しかも適当に)

　指差した先には、漬物石に手ごろそうな石。

　持ち上げようとしたはずみに足の上に落下。

　足を引きずって最初の石を手にとり、祈るような声で。

　と、そこに現れたコリスがリッキの肩をポンと叩く。

　そこへコリスを追ってアシストもやってきた。声をかけようとするが、ただならぬ雰囲気に口をつぐむ。

　リッキの呼びかけにより、再び何者かの気配が感じられ、それはどんどん強くなっていった。そして一瞬地面が震えたかのような感覚が一同を襲ったかと思うと、先ほどリッキが落とした漬け物石の上に、グレーの丸々とした小人が赤い帽子を被ってちょこんと座ってにやりと笑った。
……のが、リッキとヴィトリスには見えた。

　そして、あっという間にリッキの手に持った小石に吸い込まれていく。

　大事そうにその小石を両手で包む。

　周囲を見渡す彼の目が、つい今しがたノームを封じた石に止まる。

　「すとーんさーばんと」の意味は分からないが
直感で危険を感じ取ったらしい（笑）
カルソニックの後ろに隠れてみたり。

　こちらは本気のようだ。

　先ほどの漬け物石をビシィと指さし、個室の方へと逃げ出す。
足の痛みはもう忘れているらしい。

　と、小さな石―漬物石ではなく―を拾い上げ、ポケットに入れる。