娘は目の前のベッドで静かな寝息を立てている。結局あの後自我の確定しないまま再び意識を失い今に至っている。
　冒険者達には既に引き取ってもらったが、実のところ、もう大丈夫だろうと言ったのは方便にすぎなかった。ただ、結果がどうであれ始末は付けられると踏んでいたし、それがかなわなかったとしても、最早彼が気にする問題ではなくなる。

　誰かに語りかけるように独り言を続ける。

　そこで一旦言葉を切ると、ガレスは後ろのドアの方に視線をやった。音もなく、気配もなく、いつの間にかドアが開いていて、そこには少年が一人ぽつんと立っている。

　ガレスの言葉に、だが少年はゆっくりと首を横に振った。

　傍らに───あたかも少年が来るのを待っていたかのように───置いてあった椅子を引き寄せて、少年に席を促す。少年は───自分自身でも───驚くほど素直に席に着いた。

　ガレスは腕を組むと少し天井の梁のあたりを見上げた。そして、視線を傍らに座る少年に移す。

　その言葉に、少年がきっと視線を尖らせるのが分かった。そして付け足す。

　少年が怪訝そうに聞き返す。

　そこで一瞬会話が途切れた………

　淡々とガレスは答える。その言葉に、少年は少し視線を伏せながら呟いた。

　置いていったくせに…という言葉を少年は飲み込んだ。恐らく、ガレスはそのことを理解した上で言っているのだろう。

　少年は黙りこくって俯いた。少し視線をベッドで眠る少女に向け、そしてガレスの方に戻す。

　少年が少し視線を上げるようにガレスの方を窺う。

　少年は再びベッドの方に視線を戻した。

　少年がぽつりと呟いたのを、少し驚いたようにガレスが見る。だがすぐに、またぼんやりとベッドの方を見つめ直す。

　少年が怪訝そうな目を向ける。だがガレスは気にした様子もない。

　言いながら視線を上げる。

　立ち上がり、棚の方に向かおうとしていたガレスが足を止めた。だが開き直ったように再び歩き出す。

　そう言いながら、ガレスはごそごそと棚の中を探している。その間、少年は再びベッドの少女に視線を向けた。

　そう言うと、自分の言葉に少年はくすと小さく笑った。

　なにやら棚の前で、ガレスが額に指を当てている。

　そう言うと、少年はまたベッドの方に向く。