───とその時、ドリス達のすぐ近くの草むらで、「かさ」と小さな音が聞こえた。
　音の方に視線をやると、女性が一人、きょとんとした顔で立っている。森の入り口で出会った物静かな美女、エシルだ。

　彼女は少し困ったように、ドリス達の作ったたき火を見つめている。
　アーギーの方にちらりと視線を投げかけ、そして再びたき火に視線を戻した。

　訊ねてみるものの、コミュニケーション手段がない。

　エシルは、まだ困ったようにこちらを見回している。カルソニックが剣に手をかけている間は、半身引いて警戒するような態勢を取っていたが、今は多少警戒を解いたようだ。
　もっとも、この状態でも、カルソニックが抜き打ちで斬りかかれば逃げ切れない。そのため、エシルは完全には警戒を解いていないように見える。

　エシルは、弔いかけの死体が気になっているようだ。そして、寝かされているマリエルの方もちらちらと見ている。
　もう一つ、エシル自身の後方も何やら気になるようで、ちらちらと見ている。

　クレフが意を決してエシルに近づこうとする。

　彼女は、やはり何か言いたげにクレフの方を見ている………

　と、その時、突然エシルの後ろから、聞き覚えのある生意気な声がすっ飛んできた。

　エシルの後ろの森から、ばたばたとユーリが駆け足で出てきた。その後ろから、ドワーフのベインがのんびりと出てくる。

　埋葬準備中の死体二つに、死にかけのマリエルに、その他ただならぬ雰囲気をきょときょとと見回す………

　まさかこの連中が犯人ではないだろう、とは思いつつ、ドリスは一応警戒は怠らない。

　と、クレフは死体とマリエルのいきさつを、簡単に説明した───

　と、大して役には立たないと思いつつ、イルミナは木の枝を数本使って穴掘りを手伝い始めた。

　遅々として進まない穴掘りの状況を見て、少し考え込む。

　と結論し、仲間のいる方に向いて呼びかけ。

　呼ばれて、すぐにクレフがやってくる。現金だ(何が?)

　ドリスも腰を浮かせかけたが、クレフが行ったことと、マリエルの側からあまり人が減るのは良くないと思い直し、そこにとどまった。

　クレフは、背負い袋からくさびを取り出して穴を掘り始めている。

　ユーリもぽてぽてと走ってくる。

　ユーリは死体の一人(ジェイクとかいう戦士風の方)の剣を拾うと、それで穴を掘り始める。

　ちっちっちっと、(泥まみれの)人差し指を立てて横に振る。超生意気な仕草である。

　と、がしがしと掘るユーリ。

　などと言いつつ、くさびをもう1本取り出し、両手で掘り始める。
　───結構、馬鹿っぽい………

　その頃、たき火の方に残った面々は───

　エシルは軽く首を横に振る。

　そう言い残して、アスタルテはアーギー達の方に近づく。

　と、最初穴掘りをしていた時に泥だらけになってしまった自分の姿を見せて笑う。