ジークは、ティアードが呼びに来るまで、割り当てられた部屋で待機する事にした。

愛しの女性を思い出して呟く。

部屋の扉がノックされる。

間を空けて扉を開き、顔を覗かせたのは、初めて見る娘。
もう１人の使用人、セレンである。
手には小包を持っていた。

そう言って手を差し出す。
が、しかし、

出してもらった手で、軽い握手を交わす。

2人は部屋を後にした。

砦の本館から出ると、木の下でアルスがまだ寝ていた。

アルスに近寄るセレン。

しかし、素直に起きそうにない彼。

『呼び捨て？』 と気に止めるジーク。

起こすのを途中で諦め、セレンが戻ってくる。

開いている門を潜り、2人は市街に向けて歩き始めた。

並んで歩く、ジークとセレン。
中央街までは、一本道が続く。

気になった事を聞いてみる。

素直に答えてくれる。

生家について聞いてみたかったが、フォンから聞いた予備知識――スラム出身だという事、が邪魔をした。

話題を変えて、話を続ける。

照れくさそうに笑って答える。

少し恥ずかしそうに。
"使用人の働きを見る目"という意味である。

当り障りの無い返事をジークは返しておいた。

すっかり観光客である。

誘いに乗って、そう言葉を返した。

街の中心部より少し離れた場所。
1軒のこじんまりとした屋敷の前で立ち止まるセレン。

数分経過。

ジークが表の方を見ていると、1人の娘が両手に何やら抱えて屋敷を訪れる。

身長160ちょっと。ちゃちな皮鎧を着てますが、露出度高め。
少しくせ毛になってる黒髪をバンダナや髪飾りでまとめていた。

背中にロングボウが見えますが、狩人というよりは蛮族風。
年の頃は18〜20というところである。

大量に抱えた物は何か食べ物の包みらしく、甘く香ばしい匂いがした。

ジークが包みを見たのに気付く娘。
初対面第一声は、

である。

素直にねだってみる。

そう言うと、包みを 7つ、押し付ける様に渡してくれる。

ティニャは、そのまま屋敷に入っていった。

突っ立っていたから、間違えられたのかも知れない。

セレンを待つ間に、包みを開けて食べてみる。
クレープによく似たそれは、口の中で柔らかな甘味を残してすぐに溶ける、軽いお菓子であった。

1つ食べ終えた時、荷物を届けたセレンが戻って来る。

匂いに気付いて、ジークの持つ包みを見る。

誤魔化さなくてもいいのに、と思うセレン。

待っている間に、お菓子を買いに行く人間に見られていた。

買いに行ってない、と強くは言わない。

粛然としないものを感じるセレン。
何はともあれ、2人は屋敷の前を後にした。

屋敷の次は、学院の出張所へと向かう。

道々、セレンに聞くジーク。

全然逆方向だったので、腕をくい、と引かれる。

少し照れるジークであった。

学院の出張所に到着。
建物には窓口があり、1人の老婆が暇そうにしていた。

窓口の老婆に話し掛ける。

ジークの格好を見る老婆。

老婆は、よいしょ、と手近にあった帳簿を開いて調べ始めた。

帳簿がぺらぺらとめくられる。

所持金は、900ガメル程あった。

予算（フェリオ提示）額の 3倍である。

腰を上げて、奥の棚の下から薬瓶を持ってくる老婆。
「100ガメル」という札が付いているのが見えたが、その札を無造作に千切ってから窓口に置く。

性格的に、値引きを押し通せないジーク。
素直に 200ガメルを支払い、小さな薬瓶を受け取った。

一緒に貰った説明文には、「口当たりの良い酒と混ぜて飲む事」と書いてある。
酒 1リットルに対して1瓶の割合、と。

しげしげと、薬瓶を見ながら考える。

買い物を終えて、窓口を後にするジーク。

セレンが聞いてきた。
彼女の給金、1ヶ月分の買い物である。

笑顔で言葉を返す。

2人共、用事が済んだ所で、

セレンに、街の中心、城の跡へと案内してもらう。

跡地には、粗末な小屋が建ち並んでいた。
所々残っている壁や堀が、当時の名残りとして目に付く。

城跡の奥へと、向かう。
途中、跡地に住んでいる者の視線を感じたが、何も面倒な事は起きなかった。

そして、セレンが見せたい物のある場所に着く。
その一画は、部屋ごと損傷を免れた場所であった。
セレンに連れられて部屋の中に入ると、部屋の中心に"それ"はあった。

大きさは2ｍ四方。
ドワーフの手によるものか、精緻な街の模型が置かれていた。

どうやら、地震前のロスフェルを元にして作られた模型らしい。
街の規模は、現在より多少大きかった。

頷くセレン。

砦も模型の端にあった。崩れる前の城も立派に作られている。
見慣れない、と言うより今の街には無い白い尖塔が、東の街外れに立っていたりした。

ジークの隣で、模型を覗きこみながら言う。

食い入るように見るジーク。

落胆のため息をつく。

薄暗い部屋の中で、模型鑑賞を楽しむ2人――。

にこやかな笑顔で、セレンに話し掛ける。

2人は、来た道を引き返して街に戻った。

宿屋や酒場に加え、小さな市も立って賑わっていた。

既に意識は店の前。

店まで、セレンが先導してくれる。
店は幾つかあるが、そこが一番美味しいとの事。

着いた店は、屋台風の出店であった。
ロスフェルでは周りを見ても同じ様な店ばかりで、ちゃんとした店の方が少ない。

店の前に立つ。

セレンはちょっと返答に悩んだ。
ジークがフォローして答える。

目の前で、ランヤンパが焼かれる。

と、10ガメルを手渡す。
8個頼んだセレンも代金を払おうとしたが、ジークはその分も出した。

焼き上がったランヤンパを受け取って、セレンにも渡す。

代金を支払ってもらい、済まなさそうに言うセレン。

2人は砦への帰路に着いた。