封印

　ヴァーンがコマンドワードを叫ぶ。
　永遠とも感じられる一瞬。
　唐突に箱の蓋が開くと、辺りは箱からあふれ出した、『ピッカリ君(仮称)』の何倍もの明るさのすさまじい光の奔流に包まれた。
　アニエスに飛びついたパオルも、もつれあったまま、その光に包まれてしまった。

　いくつもの光の束がアニエスの胸のペンダントに向かって迸る。
　クリカイル(アニエス)は、憎悪と苦痛で歪んだ顔で、冒険者達を睨み付けた。

　……映身への攻撃は、その本体の魂を傷つける事になるのだが。

　そして光が爆発し、パオルはその衝撃で壁まで吹き飛ばされた。
　冒険者達がようやく視力を回復すると、アニエスがその場に倒れていた。
　その首からネックレスは消え失せ、箱は何事もなかったかのように蓋が閉じられていた。

　その光の爆発を背に何やらポーズを取る。
　……本当に完了したのだろうか？

　フェリオは、回りを見渡しながらアニエスの元に屈み込み、

　平手で、軽く頬を叩く。

　フェリオにしがみついて泣き出した。

　どうやら、クリカイルに操られていた間の記憶も持っているらしい。
　恐怖と自己嫌悪で、錯乱気味のアニエスに、

　フェリオは、優しくそう語りかけた。
　しかし、アニエスは、未だショック状態から回復する様子はなかった。

　フェリオは、一つ頷くと、そう言ってシルクハットに手を突っ込んだ。
　取り出したるは、リンゴ……ではなく、ハトのティルト。

　アニエスに、驚愕と好奇の表情が戻ってきた。

　再びシルクハットに手を差込、今度はちゃんとリンゴを出す。

　差し出されたリンゴをおずおずと受け取ると、一口囓る。

　リンゴを頬張りながら可愛らしい笑顔を浮かべるアニエス。
　その姿を確認し、フェリオは他の子供にも残ったリンゴを配った。

　もつれ合ったままのディランに、アルトの肘がはいる。
　体を起こしたディランを引き剥がし、アルトは改めて周りを見渡した。

　ディランの頭を殴り、脱力したようにその場に寝転がった。

　アニエスと違い、ディラン達には状況が掴めていないようだ。

　身を起こして、ディランを怪訝な表情で見つめるアルト。

　ディランのウィンクに、アルトは取り敢えず納得せざるを得なかった。

　何の変哲もないただの小箱のようになった箱をしっかり掴んだまま、その場にへたり込む。

　叩きつけられた壁からむっくりと起きあがった。
　酒を飲んで動き回ったから酔いが回ってきたらしい……。

　冒険者達の緊張が解け、強烈な脱力感に包まれたまま、数分が過ぎた。
　しばらくして、倉庫の入り口からひょっこりとジョージが現れた。
　なぜが、ぼろぼろの格好で……。

　そう言って、ジョージの背中をかるく叩いた。

　崩れた天井からひょいと飛び降り、そう礼を言った。

　ヴァーンは、よろよろと立ち上がると、リュース、ディランと共に歩き出した。

　と、アニエスの方を見て、

　アルトとフェリオは、アニエスを連れて学院へ。
　そして、気絶したシェルを背負ったパオルとジョージは、子供達を連れてラーダ神殿へと向かった。